TANABE KOGYO

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2022.04.20

良木を巡る旅/和歌山山長(前編)

Introduction

数年前から田辺工業が木材の仕入れをしている和歌山県の山長商店。古くは江戸時代から銘木を育て、供給する木材の老舗。山を育て、森を育て、良木を育て、日本の家づくりを支えてきた。その真面目な仕事ぶりに真髄をみた。

 


木材のルーツを知ること

まだ肌寒い3月、田辺工業主催の1泊2日の木材産地見学ツアーに同行させてもらった。今回のツアーには、これから家を建てるお施主さん、その設計を手がける建築士さんが参加していた。田辺工業社長の田邉氏によれば、自分の家に使う木のルーツを知ってもらうことで家への安心感や愛着が変わってくると言う。お施主さんの都合がつく限り、定期的に行っているとのことだった。

滋賀県から片道4時間かけてようやく和歌山県田辺市にある山長商店に到着。挨拶も早々に、山長商店が守り続けてきた山林へ向かった。


圧倒的なスケールの森

林道は綺麗に整備されており、作業現場まで車でスムーズに行くことができた。現場は少し見晴らしがよく約5000ヘクタールといわれる山長商店の広大な山林に圧倒された。

現場では若い山守さんがちょうど杉を伐採しているところで、説明をしながら実演してくれた。リズミカルなチェーンソーの音が心地良く、とても軽やかに簡単そうに見えた。もちろんそんなはずはないが、そう見えるのも長年のプロの技なのだろうと感心させられた。


紀州材の品質を知る

伐採した後の断面を見ると、木の中心から綺麗に年輪が同心円上に広がっているのが確認できた。「木の中心に年輪があることは木が真っ直ぐ成長した証で、山長商店さんの管理のたまもの」と田邉氏は言う。また、年輪幅の細かさが紀州材の特徴にひとつで、ゆっくり時間をかけて成長していること、硬く強度が高い木材であることを示している。さらに、目が細かいので製材した後の木目がとても美しいと教えてくれた。


山の仕事を知る

話を聞けば、山長商店では江戸末期から山を守り育てる育林事業を行なっているそうだ。10年20年の単位で伐採、植林の計画を進める傍ら、森林管理の記録を日々漏らさず残しているそうだ。現代でいうPDCAサイクルを昔から丁寧に実践されている。

柱材なら樹齢60年〜80年の木を使用するらしく、考えてみると一人の山守が一本の木に対して最初から最後まで関わることがない。必ず世代を跨ぐ事になる。場合によっては植林したのは先々代ということもある。次の世代につなげるという強い意志と実践がなければ続いていかない仕事。とてつもなく果てしない気持ちになった。


日々の精進と安定供給

山長商店では、良質の木材を安定的に供給し続けることを大切にされている。言葉にすると簡単に思えるが、田邉氏曰く「日々の真面目な精進がなければ、品質を保った木材を安定供給することはできない」とのこと。さらに「安定供給してもらえることこそが、私たち工務店にとって大切なこと」と話してくれた。田邉氏のいう「精進」とは、過去に学びつつも、的確な状況判断の下常に向上心を持って新しい技術や手法を取り入れチャレンジしていくことのようだ。

良木を育てるには、良質な林を育てること、良質の林を育てるには、良質な山を育てること。簡単な理屈だが、実践ははるかに難しい。美しい森を歩きながら山長商店が日々粛々とやってきたことにその偉大さを感じた。


山長商店の人間力

山林を見学したツアー1日目で何より強く感じたのは、山長商店で働く人の素晴らしさ。生き生きと誇りに満ちた表情、ユーモアを交えた分かりやすくてロジカルなお話、感動的なツアーのコーディネイト。そのどれもが参加者全員の心を掴み、自然とこの山で育った木に愛着がわいていた。自分も家を建てる時には山長商店の木材を使いたいと想像しながら、ツアー1日目を終えた。